著者：齊藤　慶輔
発行：北海道新聞社
2014年5月30日
Ｂ6/P256

特に傷ついたシマフクロウ、オオワシ、オジロワシといった希少猛禽類の救護と治療を担い、野生復帰という大目標に向け日々心血を注ぐ。エゾシカ猟が原因の鉛中毒、鉄道・自動車や風力発電施設への衝突事故など、絶滅の危機に瀕する鳥たちを取り巻く人為的危機が増す中で、被害状況の把握とその予防に力を尽くす著者が訴える「環境治療」の考え方とは何か。

「プロフェッショナル仕事の流儀（NHK）」や「ソロモン流（テレビ東京）」などメディアでも取り上げられ、映画「ウルルの森の物語（配給：東宝）」の主人公のモデルでもある著者が、野生動物専門の獣医師という視点から、仕事の内容や野生に生きる動物たちの現状を発信しています。
2008年5月から2010年4月にかけて、北海道新聞夕刊の紙面で連載していた「野生動物を診る　道東から」の記事をまとめたものではあるものの、新鮮な情報と書き切れなかったことも加えて、大半が新しい原稿として執筆されているそうです。当時の記事は「治療室から」としてできるだけ残されています。

北海道に限らず、世界的にも問題となっている「野生動物の鉛中毒」に関する知見や新エネルギーが注目されている中での風力発電所でのバードストライクの状況などが、現場の視点から書かれています。
野生動物の獣医師のバイブルとしての役割はもちろん、環境に関わるすべての人にとって野生動物との関わりについて考えさせられる内容です。
専門的な話ではあるものの子供でも内容を理解できるほど噛み砕いて解説されているので読みやすく、著者自身が「できるだけ多くのカラー写真や図表を使い、ビジュアル的にも楽しいものにしよう」と述べている通り、ふんだんに救護の現場の写真や最新の図表が配置され、多くの人が楽しく学ぶことができる内容に仕上がっています。

■目次

はじめに

1章　猛禽類を守る
　なぜ猛禽類を守るのか
　野生生物保護センターの役割
　*治療室から*
　　救護下のシマフクロウの繁殖に道
　　必死に、したたかに生きる鳥たち
　シマフクロウ保護の拠点
　猛禽類医学研究所の仕事
　*治療室から*
　　始まりは1本の電話から
　　呼び名はみんな「ピーコ」
　自然界のルールに逆らわぬ救護
　野生動物の心を読む
　環境治療と救護の課題
　諸外国との連携
　*治療室から*
　　（鳥たちの受難）
　　食べ過ぎが災いし凍死寸前に
　　オジロワシの二重苦
　　若いオオワシとの悲しい再会
　　フラッシュに目がくらみ墜落？
　　深刻さ増す海鳥の混獲
　　空から鳥が降ってきた！？
　　喉を突き破って何かが…
　　珍鳥！？オレンジカモメ
 

2章　鉛中毒
　ワシが大量死
　エゾシカ猟増加に連れて
　防止のための市民活動
　あるハンターとの出会い
　行政の対応と続いた症例
　海外からも注目が
　他の猛禽類への影響
　*治療室から*
　　国境越え鉛中毒症対策
　

3章　人間界との軋轢
　事故予防と専門家との連携
　具体的な予防策を提示
　環境治療の具体的取り組み
　　交通事故/感電事故/発電用風車との衝突
　野生動物への餌付け

4章　大量死防止と「野へ返す」こと
　サハリン資源開発の脅威
　*治療室から*
　　野鳥の大量死再び
　人獣共通感染症への対応
　「野へ返す」ことを見据え
　危険回避は本能頼り
　野生へ-復帰の判断と方法‐
　*治療室から*
　　リハビリを重ね、輝く姿復活

5章　未来へ
　厳しい台所事情の中で
　苦い経験が生んだ診療具
　野生に返れぬ者たちの行方
　自然界からの「親善大使」

終わりに-若者たちへ伝えたいこと