第25羽 「50年前の「谷戸」という地名にであって」

今年の春は、お花見をするまも、花より団子をあじわうまもなく、あっという間にすぎてしまいました。また!引越しがあったのです。
考えてみれば昨年2月から7月の間に4回の引越しがありました。姑のグループホームへ引っ越し、店閉店で必要なものをレンタル倉庫へ大移動、自宅マンションの引っ越し、姑のグループホームからの退去、と何トンものトラックが行ったり来たりしました。
もうこれで一生分の引越しを終えたかなと思っていたら、実家の両親が府中の家を処分してマンション住まいしたいと言い出したのが昨年末。
87歳になる父が、やれ植木屋さんだ、外壁の塗装だ、固定資産税だと、さすがにいろいろ面倒になってきたところに、高司の一言が、父に引越しを決心させました。
「お父さん、いいですよ、マンションは。枯葉が樋に詰まらないかとか、雪で屋根がつぶれないかとか、雨漏りとか、全然心配しないでいいんですもの」

私たち家族は結婚して半年以降、マンションを3軒かわり、鍵ひとつで出かけられるお気楽生活を享受しています。ただ、高司にしてみればもう一軒、店のあった築85年の古い建物のお世話をずぅっとしていたわけで、台風のときは家が飛ばされないか心配でわざわざ泊まりに行き、落ち葉掃除やら、雪かきやら、家の内外に気を使う生活も続けていたのです。去年これらのことから開放された時は、ほんとに嬉しそうでした。
店はたびたびメディアに登場した“趣きのある理髪店”ではありましたが、その趣きのうらには人知れず苦労があったのです。私たちはあえて見には行きませんでしたが、店を壊す一部始終を見ていた元ご近所さんからは「高ちゃん、よく建っていたねぇ、あの店」と言われたほど老朽化が進んでいたのです。

さて私の実家は築35年で、店に比べたらまだまだとはいえ、見た目以上にガタがきていました。人間も35年過ぎれば、さすがにぴちぴちギャルじゃなくなりますものね。昔ながらの職人さんが建てた家で、頑丈さを優先しているため採光も今ひとつで部屋は暗く、パーキンソン病を持つ父にとっては、これも心の重荷になっていたようです。しかも35年前に植えた垣根や植木はかなり茂って、季節ごと植木屋さんに来てもらっても、手入れが大変でした。
父はこの家の前に、同じ場所にもう一軒小さな家を建てていたので、トータルすれば52年もこの地に住んでいたのですが、私たち姉弟は小学校から市外に通っていたため、地元でのお付き合いが希薄なままでした。買い物も病院も、都心にでているため「地域」と言うコミュニティに思い入れが少なかったことも、今回は幸いしました。
87歳の父が引越しを決心し、79歳の母も納得し、事を進めることになりました。家の売却、新居の購入については、店を処分するときにお世話になった三井のリハウスにお願いすることにしました。インターネット全盛時代、鮮度のよい情報がよい結果を生むという、物件売買の難しさを熟知し、きめの細かい対応でサポートしてくれて、とても頼りになったからです。ただ、売買にいたるまでは、さまざまな書類が必要になり、これも昨年お世話になった土地家屋調査士の先生にお願いすることになりました。

書類を揃えていく中で判明したのが、今から52年前の清水ヶ丘は「府中市谷戸」という地名だったということでした。
府中市の清水ヶ丘という場所は、太田道灌が江戸城への水道を引くために堀を作った場所と聞いていました。そのせいかとても湿気の多い場所です。私が5歳のころ、水道工事が入ったときには地面から水が沸き、それにびっくりしたのか、大きく太い二匹の蛇がにょろにょろ出てきて、思い切りビビったものでした。白い蛇は守り神ということで工事の人たちは大事にしてました。「大人って蛇のご機嫌をうかがうのね」と思ったものです。
古い家の玄関前に青大将がトグロを巻いていることもあって、巳年生まれの母が手を焼くこともしばしばでした。沼がいっぱいあって行くことを禁じられていた南斜面に、こっそり探検に行って戻ってくるとき蛇が横を一緒に這っていたこともありました。家の前は林で、裏は藪、京王線の窓から仕事に行く父が手を振るのが見えたほど、のどかな場所が半世紀近く前の我が家の在り処だったのです

父も母も忘れていた地名、私の初めてみる地名が「谷戸」でした。

谷戸といえば、下草や雑木林の中をちらちらと小川が流れている、そんな場所ですね。ということも17年前に知ったほど、私自身「谷戸」という言葉に疎かったのです。高司の学生時代のマドンナで、神奈川県民みどりトラストの活動をしているトッパさんが「カタクリの咲く谷戸に」という本を1991年に出版された時に、いろいろと谷戸の魅力を教えていただき、私の中に谷戸への認識が生まれました。

トッパさんによれば、谷戸は、丘陵地や丘の谷間の低くなったところを指すのだそうです。低いところに自然と水がたまって、そこに適した草が生え、それらを好む虫や生き物が住み着き、穏やかな空間ができて行ったそうです。河川敷で田んぼを作るには氾濫などによるリスクが大きく、あえて安心な谷戸の部分を広げて田んぼを作り、周りの雑木林を活かしながら、無理をせず手当てをしながら、遠い昔から長いこと人は谷戸と暮らしてきたのです。
昭和30年代に入り、石油文化が日本人の生活を変えました。
安心で、美しく、生物の多様性に満ちた谷戸は、開発の名のもと大型重機によって切り崩され、人間と自然の共存する世界はどんどんと消えて行ったのです。

彼女は、生き物の宝庫の谷戸が、あまりに安易に壊されることにいたたまれず、保全活動に取り組んでいると語っていました。
谷戸の話しを聞き、私の脳裏に浮かんだのは、まさに実家の南斜面に点在していた沼や水溜りや、足元の悪い草の道が、夏の日差しを反射して光っている光景でした。
「保全活動」という言葉がぴんと来なかったのは、私の中では当たり前の景色だったからでしょうか。

水はけの悪い場所で、洗濯物の乾きも悪かったこと、父が作ってくれた砂場も雨が降るとなかなか乾かなくて難儀をしたことが思い出されました。8歳の頃、雨が降ると泥沼になっていた東府中の駅までの道は、大きな石が敷かれ、そのうちにアスファルトになり、目の前の林がなくなりパラパラと家が建ちはじめました。裏の藪も消えました。ここはかなり興奮する秘密基地としてしばらくは近所の子ども達の遊び場で活躍しました。そうこうするうちに南斜面のまぶしい景色も姿を変え、一番大きな沼まで姿を消していました。蛇の姿を見なくなってからずいぶんとたちます。
谷戸らしいものは何一つ残っていないことに気づきもせずににいたのは、恥ずかしいことでした。私の幼いころにあった谷戸の景色は見事に姿を消していて、トッパさんから教えてもらった谷戸の定義は、私の心象風景の中だけのものになっていたのです。

父たちの新居は、都内の神社では4番目の広さを誇る井草八幡宮の、おとなりに建つマンションに決まりました。晴れた日には遠くに丹沢の山々や、富士山もみられます。あしかけ5日に渡る引越しも、お願いしたアート引越しセンターののべ23人のスタッフの機敏で心のこもった対応のおかげで無事すみました。
新婚さんのように新しい家具や電化製品に囲まれ、両親は快適な暮らしをスタートすることができました。眺望は抜群で、右手にお宮の杜が広がり、善福寺公園と東京女子大学の森が正面に見えます。その奥には成蹊大学のケヤキ並木も望めます。朝な夕なベランダに出ては二人で「地球は丸いのね」と窓からの景色を楽しんでいます。
このベランダから見える景色が、以前の家の前から消えてしまった谷戸の光景のようにすっと消えうなことがないよう、今度こそ大事に守っていかなければなりません。

まずは、間近に見られる樹齢200年のケヤキの大樹を、どうしたら守れるか、ということでしょうか。このエリアのシンボルツリーともいえるこの樹の伐採騒動は、西荻窪地域を揺るがせています。さまざまな人や団体がこのケヤキを守りたいと声を上げています。
地主さんが土地を処分し、杉並区の保護樹林指定がはずれたことで伐採可能となったとか。保護樹林自体の縛りというのは無いに等しいことも聞きました。
善福寺池から善福寺川へ、このあたりの緑比率は区内でもきわめて高いので、もしかしたら「この一本くらい」という思いも、行政のどこかにあるのかもしれません。

善福寺池を中心とした古地図や、戦前からの航空写真を収集している西村眞一さんに、この大欅がどのようにそれらに残っているのか、調べて頂きました。地図に関しては記載がなく、航空写真でも、このあたりが鮮明に映っている進駐軍のものでも、特定はできなかったそうです。50年近く前はこのあたりは木々が並木のように生えていて、どの木か確定はできなかったそうです。確かに隣接するどんぐり公園は善福寺川への斜面をうまく使った大きな木が生い茂る、子ども達の人気スポットです。でもさらにその周りに木々が残っているかと言うと、とても並木のような状態とは言えません。

昭和の時代が終わって20年が経ちました。
本屋さんに行けば、戦後の写真集や「3丁目の夕陽」的なものが溢れています。モノも人も、時代や流行にながされ、ここまでたどり着いてきて、ふと立ち止まって遠く昭和をかえりみているのですね。その昭和ノスタルジィの中に、私の目の前から消えてしまった谷戸や、風前の灯の大ケヤキのある光景を思い浮かべて、何か行動を起こせるようになれば、「環境保護」や「自然保護」の裾野が広がるような気がしてなりません。

両親の引越しで思いがけなく「谷戸」という言葉に触れ、私の根っこにあるあの光景を思い起こしました。谷戸という言葉を知って17年経ち、トッパさんにもう一回お話を聞いてみました。
いまよく耳にする「里山」も谷戸を含む環境のことなのだそうです。
CO2や窒素、オゾンのこと、石油に依存した日々の暮らしのこと、何かをしなければならないとわかっていても、動けない人が多いことへの無念もお話しされていました。残念なことに日本中で谷戸が壊され、そこに住む生き物達が住処を失っている現状は今も変わらないそうです。

谷戸は昭和30年代まで連綿と人と自然を包む、豊なゆりかごだったのですね。サシバを頂点とする絵に描いたような食物連鎖が、きちんと成り立っていたのです。この食のピラミッドが、崩れかけているのは明らかです。多用な動植物で成り立っていたものが、温暖化や外来生物の強襲で、土台の広がりが単純化したために、ピラミッドの頂点に近い生き物へのダメージは計り知れないでしょう。このピラミッドをヒトの努力で、少しでも元に戻すことを早急にしなければなりません。

今ひとたび、自分でできることは何かを、私自身も考えてみようと思った、そんな春になりました。


http://www.fieldart.net/
まだまだ工事中ですが時折のぞいてくださいね。谷口高司鳥絵工房のサイトです。

私のブログはこちらです。
5月はかなりくたびれた日々のことを載せてます
http://blog.livedoor.jp/tamashigi/

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NEWS
8月10日(日)11日(月)大阪・太閤園の大阪よみうり文化センターカルチャーフェスティバルで“タマゴ式”鳥絵塾を開講します。「シジュウカラ」「フクロウのひな」「タンチョウ」と3回開催します。
お近くにお住まいの方、ぜひ鳥絵の楽しみを実感しにいらしてくださいね。

http://www.oybc.co.jp/pagi/2008culture_fes/bird.html

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NEWS
信州、信濃追分の追分コロニーで5回目となる追分散歩を開催します。前日の鳥絵塾では「キビタキ」を描きます。
8月2日(土)“タマゴ式”鳥絵塾  キビタキ
8月3日(日)早朝追分散歩

詳細は追分コロニーHPで順次UPされます
http://www11.plala.or.jp/colony/

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5月に店頭で開催した「フィールドガイド日本の野鳥増補改訂版・増補部分原画展」に多くのお客様にお運びいただきありがとうございました。ご好評いただいた「バードオリエンテーリング」はいましばらく継続してお楽しみいただけます。
ご来店のたびに参加賞のポストカードをゲットして行ってくださいね。
※参加賞協賛 伝える印刷会社㈱ベクトル

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♪谷口高司の額装原画イラスト、店頭で販売開始しました。
一部作品はただいまセール中です。

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【野鳥の絵を楽しむ教室:いずれも事前申し込みが必要です】

◆今月の「谷口高司と野鳥を楽しむ会」

描きおろし完全オリジナルテキストを使ってタマゴ式鳥絵塾。
6月は華やかな鳥を描きます
  13日(金)18時半 アンサンブル荻窪
  「楽コース・キビタキ♂」
   19日(木)18時半 アンサンブル荻窪
   「極コース・ルリカケス」

必ず事前にお申し込みください。参加費は1000円です。
レンタルで画材もご用意できます(別途300円)
詳細はこちらへ  http://www.fieldart.net/drawing.html

◇過去のオリジナルテキストも頒布中です。1枚450円です。
 参加申し込みの際に、ご希望の鳥をお教えください。

◆2008年度も、毎月第二金曜日と第三木曜日の月2回開催を基本として、年間計画を立てています。よろしくお願い致します。

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セカンドライフ「富士通島」では、美しい野鳥の看板が島を散歩することに掲示されています。こちらは今年一年ご覧いただけるとのこと。ぜひお散歩してみてくださいね。http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/37043.html

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~「着物でハーネス」バックナンバー~
第1羽 「図鑑と私の切ない関係」
第2羽 「きっかけは“ぬくもり”」
第3羽 「雨は好きですか?」
第4羽 「『鳥のぬりえ』夏場所」

第5羽 「旅でであった鳥」
第6羽 「か行の話で、ごめんなさって・・」
第7羽 「善福寺池男2人の物語」
第8羽 「着物でハーネスに至ったわけ」
第9羽 「モノクロ写真に鮮やかな色彩が蘇るとき」
第10羽「カモメとイワシと私のあやしい関係」
第11羽 「冬はやっぱりラ~メンでしょ!」
第12羽 「鳥の絵を描く『谷口高司と野鳥を楽しむ会』」
第13羽 「店閉店で考えた“もったいない”のホントの意味」
第14羽 「今をありのまま受け入れて生きる・・・ことを学んだ三宅島」
第15羽 「古本に魅せられた人たちウォッチングにはまる」
第16羽 「歩いてみました、善福寺川」
第17羽「灼熱の8月に人を偲び鳥を思う」
第18羽「双眼鏡と望遠鏡と」
第19羽「またまた図鑑の話」
第20羽「あたりき、しゃりき・・」
第21羽「つる・ツル・鶴とおめでだい一年でありますように」
第22羽「男前のアイサ類がやっぱり好き♪です」
第23羽「ハーネスからなごやめし&鳥観の旅」
第24羽「動物園がスキ♪」

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