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第7羽 「善福寺池男2人の物語」
今月発売の小学館「BE-PAL」の“野の人”へ高司が載せていただけることになり、取材が3日にわたりありました。モノクロ5ページのコーナーなので、ライターさんは高司の生い立ちから、虫や鳥にめざめたきっかけ、今まで手がけた仕事や将来の夢まで、いろいろと話を聞いてくださいました。同行した私は思いがけず、高司の60年近い歴史を一緒に振り返ることになったのです。
その中で大きなキーワードは「善福寺池」と「いちだのりたか」でした。
高司の人生を大きく方向付けたのが、ここ杉並・善福寺地域の豊かな自然です。名水「遅の井の井戸:おそのいのいど」から湧き出た水は善福寺池を作り、新池につながり、善福寺川となって神田川を経て、隅田川、東京湾へと流れて行きます。いまでこそポンプで水をくみ上げているのですが、高司が幼少の頃は、豊かな水量のみごとな湧き水だったといいます。
生き物好きな義父が、緑あふれるこの地域の光景を一目で気に入り、理容店を開店して65年間。今も同じ場所で「谷口調髪所」の看板を掲げています。と、いうことは、高司は善福寺で生まれて一歩も他所に行ったこともなく、だから物心ついてからの善福寺池周辺の生き物については、めっぽう明るい生き字引みたいなことになっているわけですね。
善福寺池は今はきちっと整備されていますが、高司の幼少の頃は、とても原始的な池だったそうです。コウホネやヒルムシロが水面を覆い、あちこちから水が湧き、夏は冷たくて気持ちいい水遊びがトレンド。ムサシトミヨというトゲウオの一種は姿を消していたものの、ハヤやタナゴはいろんな種類がいて、飽きることがなかったほど面白い…池が元気ということは、そこに集まる虫や鳥も自然と多くなります。
岸の柳にはコムラサキがいて、雑木林にはオオムラサキやゼフィルスが、グンバイトンボやチョウトンボも飛ぶ、昆虫少年にはたまらないお宝エリア。善福寺池はそんな池だったそうです。
さて、ここで一人のガキ大将が登場します。名前を「いちだのりたか」といいます。彼は川向こうの大工の四男坊、多くの子分を引き連れて、虫捕りに明け暮れ、床屋の倅、高司少年を泣かしたことも一度や二度ではなかった様子。池で遊ぶ高司をからかい、チョウの通り道や、カブトムシのいる木々を取り合い、でも、楽しい仲間だった事が一枚の写真に残っています。
石神井公園の三宝寺池まで「徒歩!?」で遠征に行く子供達を、理髪店の前に一列に並べて義父が撮った写真…やんちゃの極みのような「いちだ」少年と、隅のほうで情けない顔してちんまりと写っている高司とのコントラストは、今見ても思わず笑ってしまいます。
虫捕り網を持って、何故か全員帽子をかぶっているのに「いちだ」少年だけは無帽。この影響が後世に出たのかどうかは謎ですが。
さて、このガキ大将こそ知る人ぞ知る市田則孝氏です。
彼は東京水産大卒業後、山階鳥類研究所を経て、まだまだ会員の少なかった日本野鳥の会の事務局に入り、以来、保護の最前線で戦ってきたツワモノです。今はバードライフ・アジアの代表としてアジア全域の自然保護に尽力しています。
竹馬の友といいますが、市田氏と高司はまさにそれ。っていうか私から見ると離れたくても離れられない不思議な絆、それはそれは濃~い友情で結ばれていて、とてもとても結婚22年程度のキャリアじゃ、太刀打ちできるものではありません。ま、腐れ縁っていうか、血よりも濃いエニシというか…
小さい時の虫捕りの細かいいさかいはおいて置いて…高司に野鳥図鑑画家としてのスタートを切らせてくれたのが、市田氏でした。日本野鳥の会の機関誌「野鳥」で、初心者会員を増やすために「ビギナーアングル」という連載をした際に、挿絵を描いて欲しいと言われ、高司が絵筆を握ることになったのです。
市田氏は「この連載は、大先生と呼ばれる人の絵を使うのではなく、みんなで作り上げるページにしたかった」とのことで、高司を思いついたそうです。彼に言わせると「俺たちの小さい頃、習い事しているだけでも珍しかったのに、その上、絵だっていうんだから、一目置いてたんだ」とのことですが、高司に言わせると「たまたま習っていた剣道の先生が宮本武蔵よろしく絵もたしなみ、剣道を習うとお絵描きもセットでついてきた」だけとのこと。
この時2人は28歳。いまから想像もつかない若さです。
どれだけ若かったかといえば…以前深夜にNHKアーカイブスで「多摩川の自然保護」の再放送中、うつらうつらしていたところ、耳なじみの声がしました。あれ?画面をみると、豊かな黒髪の知らない青年が映っています。でもこの声は聞いたことがある~と横で爆睡中の高司をたたき起こすと「あ、それ、のりちゃん」と一言。どうして分からなかったかは、あえて私の口からは言えませんが。
それほど今とは違うヘアスタイルの市田氏と、これまた体重40キロ台で、いまの転がりそうな体型とは別の生き物の高司とのコンビは「ビギナーアングル」をきっかけに「水辺の鳥」の改訂版の一部分、「山野の鳥」「水辺の鳥」の三訂版と、一緒に仕事をする場面が多くなっていきました。これも「最初はそれほどでもなかったけれど、どんどんうまくなって任せられるようになった」という市田氏と「一生懸命、通信教育とかで勉強したんだい」という高司の説明がつくのですが。
中でも2人の記念碑的な図鑑は「台湾野鳥図鑑」です。4年の歳月をかけ1991年にできたこの図鑑は、台湾初の全種を網羅した本格的フィールドガイドとなり、台湾のバードウオッチャー人口を13倍に増やし、散在していた台湾の野鳥保護団体をひとつにまとめる原動力になりました。
続いて「アジア水鳥図鑑」「新・山野の鳥」「新・水辺の鳥」「原色野鳥図鑑・韓国の鳥」と、市田則孝プロデュース・谷口高司作画の図鑑が続々と生まれました。資金調達から図鑑を描くのに必要な資料の手配、チエックしてくださる有識者やレンジャーの調整…市田氏が水面下で動くのと併行して、高司はその図鑑に必要な全図版を描き、現地の人達が納得行くまでさらに何度でも描きなおす。
ともに職人の倅同士、「いい仕事」をするため、根性の入れっぷりはすごいモノがありました。
日本野鳥の会をやめ、彼は今、世界で一番歴史があり、一番大きな環境保護団体「バードライフ・インターナショナル」のアジア地域の代表として、忙しく活動をしています。
この事務所を新宿に開いてはじめての刊行となった「絶滅危惧種・日本の野鳥」でも一緒に仕事ができました。今は「モンゴル図鑑」の到着を待ち、そして2年後刊行を目指し「仮称・バードライフ図鑑」に着手しています。
保護というとどうしても鳥好きは「野鳥」の保護をまず声高に謳ってしまいますが、バードライフ・インターナショナルは「人と野鳥と自然との共生」を考える、一歩先を見据えた活動をしているのが特徴です。
ただ、野鳥だけを守るのでは、今の地球環境の急変についていけません。越冬地・繁殖地そして渡りの中継点、どこもが同じ意識を持って保護に臨まなければ、明日をも危ぶまれる鳥がいっぱいいます。繁殖地で手厚い保護をしても、越冬地でその鳥が食用となっていては保護は成り立たない。「愛鳥」という言葉の意味が、日本と中国では180度違うのです。
国境を越えて地球規模での保護を訴え、活動をしているのがバードライフなのですが、ただ「バードライフ・アジア」というと、まだ生命保険会社と思われる向きが日本で多いのは、残念なことです。
でも市田氏はそれほど凹んでいません。野鳥の会も「焼鳥を食う会?」と言われたほど知名度が低かったのに、今や「あの紅白の…」とまで言われるほどの大きな保護団体となりました。その育ての親の一人が市田氏なのですから、育てていく楽しみを知っている人ならではの余裕を感じます。
国際会議で、現地で、Noritaka I chidaはトップアイドル並の人気者です。
まだまだ鳥を「保護」するより「食料」とせざるを得ない国々での、環境保護活動は私達では想像しがたい苦労があるのでしょう。その最前線にいる人達が、部屋を訪れたり、会議の片隅で市田氏と語ると、とても晴れ晴れとした良い顔になるシーンに、いままで何度遭遇したことでしょう。アジアの環境保護のリーダーシップをとるのは日本として大切な仕事です。市田氏は間違いなく今その中心にいて、静かな熱い闘志を燃やしているのです。
カスミ網対策・日本初のサンクチュアリ建設・国際センター設立・ツルの渡りルートの衛星調査…市田氏の業績は私が色々と書き連ねるまでもなく、RSPB:英国王立鳥類保護協会の、年に一人だけ表彰されるゴールドメダリストの、アジアで最初の受賞者ということでご理解いただけると思います。また、その軌跡は、市田氏本人が雑誌「BIRDER」で「環境保護、激動の30年」として連載中ですのでそちらでもご覧いただけます。
いろいろ口さがない人たちが、市田批判をしているのを聞くこともありましたが、彼の無私で清貧な暮らしぶりを知る私達にとっては、胸が痛むだけでした。誤解されやすい性格なのでしょうか?小細工をしない真っ向勝負なところが敵を作りやすいのでしょうか?
ともかく安易に批判する人たちは、彼の仕事に匹敵する仕事を一つでも残して、保護の力になってもらいたいものです。
我が家の息子たちにはおじちゃんと呼ぶ人が3人います。高司の弟、私の弟、そして「いちだのおじちゃん」です。真性おじちゃんよりも仮おじちゃんの市田氏の言うことを、本当によくききます。おしめを代えて貰い、台湾にも一緒に行き、大きくなるまで何くれとなく世話をしてもらい、お誕生日も毎年一緒にお祝いをして…とまさに5人目の家族。特に長男は、小学校・中学・高校と同じ学校に通った縁もあり父親同然、大学受験でもとても力になってもらっていました。今は国際文化を学んでいますが、いろいろと解るにつれ市田氏の仕事に「すげぇ」を連発。ますます本物の父親の立場があやうくなっています。
人見知りする高司も、市田氏の前では思いっきり素になり、幸せそうに、にこにことしています。だから市田氏に何かあるともう大変!彼が野鳥の会を辞める前、そして大病を患った時にも、やつれるほど心配し、絵もほとんど描けなくなったほどでした。
54年におよぶ男同士の友情の深さにこちらはなす術もありません。
生まれたところが善福寺じゃなかったら…小さい時、善福寺池で一緒に虫捕り網をふっていなかったら…高司が剣道と一緒に絵を習っていることを市田氏が覚えてなかったら…
今、アジアの多くの皆様に使っていただいている図鑑は、一冊たりともできていなかったのだと思うと、本当に神様っているんだなぁと思えてしまいます。その神様が市田氏に「生きろ」と言って、7ヶ月におよぶ闘病生活の後、元気に病院から奇跡の生還をさせてくれたのは2年前のことでした。ほぼ闘病前の生活に戻った彼を、これからも私達家族は力の限り、支え続けて行きたいと思っています。
虫捕り網を振り回していた時代から幾星霜、還暦迎えたての市田氏、還暦目前の高司が、ともにこれからも元気で楽しく「いい仕事」を残していって欲しいものです。
では最後に、2人に同じ質問に答えてもらいましょう…
| 今まで2人でした仕事で一番印象深いものとその理由は? |
| 市田 |
「台湾野鳥図鑑。何の鳥か忘れたけど、色が薄いと言われて、彼は全面的に修正し、そして、やっぱり元のままが良いと言われて、彼は黙ってその要請に応えたのが忘れられず、そんな苦労で完成した図鑑を、15年を経た今でも、台湾ではたくさんの人が使ってバードウォッチングを楽しんでくれているから。イラストレーターと一言にいうけど、大変だなあと実感させられた仕事でした。そして、その 効果も大変なものだったから。」 |
| 高司 |
「台湾野鳥図鑑。図鑑は一人で作るものじゃないと身をもってわかったし、きちんと作った図鑑はあれだけ世の中を変えることも知ったから。」 |
| 今まで2人でいて一番楽しかった瞬間はいつですか? |
| 市田 |
「日本野鳥の会をやめてから、二人で行った奥多摩のミヤマカラスアゲハ観察会」 |
| 高司 |
「いっぱいありすぎて…小学生の時、林間学校でサカハチチョウ夏型をあいつの目の前で捕まえて悔しがらせたこととか。マレーシアのタマンネガラで2人だけで川船に乗って川の流れのままジャングルの中を下っていったこととか」 |
| お互いをどうぶつに例えると何だと思いますか? |
| 市田 |
「蛾」 |
| 高司 |
「インドトキコウ」 |
| 世の中で一番好きなものは何ですか? |
| 市田 |
「鳥」 |
| 高司 |
「善福寺池」 |
| 世の中で一番怖いものは何ですか? |
| 市田 |
「ありません」 |
| 高司 |
「うちの奥さん」 |
| お互いへのメッセージを |
| 市田 |
「頑張って素晴らしいBL図鑑を出しましょう。」 |
| 高司 |
「俺達に晩年は無いんだ!生涯現役」 |
怖いものはありませんと言いながら、何故かそこの文字だけ色がちがうメールでお返事くれた市田氏、高司はどこの部分が生涯現役なんだか再確認しなきゃ…ともかく、もっともっといいお仕事して、善福寺公園に銅像なり記念館なり建ててもらえるように頑張りましょう、ね♪
バードライフ・アジアのサイトです。のぞいてみてくださいね!
http://www.birdlife-asia.org/
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♪10月5日(木)NHK首都圏「ゆうどきネットワーク」
17:10~18:00の間に善福寺公園よりビデオ出演します。
♪10月10日(火)小学館「BE-PAL」11月号「野の人」
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♪谷口高司の額装原画イラスト、店頭で販売開始しました。
♪誠文堂新光社からぬりえの本がでました!
「色鉛筆でたのしむ大人のぬりえ 日本の鳥」
12種のぬりえと見本。税込み1000円
もちろんホビーズワールドでも取り扱い中です
http://www2.osamadesk.com/st/us2133/shop_detail.php?id=963
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【野鳥の絵を楽しむ教室:いずれも事前申し込みが必要です】
◆今月の「谷口高司と野鳥を楽しむ会」
描きおろし完全オリジナルテキストを使ってタマゴ式鳥絵塾。
9日(月)9時半 JR高尾駅北口改札口9時半集合 雨天中止
多摩森林科学園で「ゴジュウカラ」を描きます。別途入場料要。
19日(木)18時半 アンサンブル荻窪「年賀状用の鳥」
必ず事前にお申し込みください。参加費は1000円です。
レンタルで画材もご用意できます(別途300円)
詳細はこちらへ http://www.fieldart.net/drawing.html
◆丸の内さえずり館 MARUNOUCHI鳥絵塾
毎月第一水曜日19時、丸の内でお会いしましょう!
10月4日「ジョウビタキに赤い実」
11月1日「ミコアイサ」
ともに若干名募集中です。 参加費800円
お問い合わせ・申し込みは直接丸の内さえずり館へお願いします。
http://www.m-nature.info/about/index.html
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