第5羽 「旅でであった鳥」


「暑い!暑い!ど〜しようもなく暑っくてもういや!」と記憶に残っている暑さってありますか?私の中でベスト3は新潟競馬、小櫃川、タイ・カオヤイ国立公園。記憶に残る暑かった夏の日がそこにはありました。。

新潟競馬デビューは22歳と遅かったのですが、夏の札幌・函館の競馬よりも、じっとりと重い暑さで、ともかくビックリ。「日本一美しい競馬場」とも称える緑の多い競馬場は、人の熱気と、草いきれでむせかえるほどでした。
その暑い新潟に、これまた焼け付く暑さの東京から、片道4時間かけて特急「とき」で行くのです。一開催4往復、本当に体力勝負で、夏の新潟というと未だに「んんん」と深いため息が出てきます。
競走馬を涼しい北海道で無理をさせずにデビューさせるか、暑い新潟で鍛えつつデビューさせるか…厩舎の考え方でしょうが、新潟でデビューした仔の方が、先に行って強く感じることは多々ありました。お坊ちゃまより叩き上げ。私の子育ても、クーラーをつけずに汗をかけ!で新潟方式でしたが…こちらはまだ社会人デビューもしていないので結果は分かりません。



結婚前の年の夏の小櫃川で私と高司は出会いました。日本野鳥の会東京支部の月曜探鳥会です。

当時の東京支部報「ユリカモメ」誌にはどう書いてあったのか、急に知りたくなって、古書コレクター西村眞一さんにお訪ねしました。膨大な蔵書と資料の中からお答えを頂くまで5分、823日に開催されたこの探鳥会のお誘い文句は「日本一の砂質干潟で渡り鳥を見よう」だったことが判明しました。
おそらく私は「日本一」にそそられて、高司はリーダーのO塚氏が大学の後輩なので冷やかしで、参加したのでしょう。砂質干潟というので勝手に砂丘っぽいものを思い描いていて、行ったらば草原。参加人数も少なく、鳥も異様に少なく、しかもしょぼいオジサンが参加していて

「夏休みに女房子供置いて、父ちゃんは鳥観かぃ!?」

と心の中で突っ込みまくり。まさかそのしょぼいオジサンと次の年の秋には結婚するとも思わず、もちろん独身とも思っていなかった…そんな夏が小櫃川と聞くと甦ります。
気の遠くなるような暑さの中、ものすごい虚脱感がありました。

 


タイ・カオヤイ国立公園では…汗がふきだすジャングルと、ヒルの大群との遭遇に、気持ちがすくみっぱなしで、思い出すたびに冷や汗と「さぶえぼ」がどっと吹きでてきます。

タイで旅行会社をやっている友人が、親子4人破格ツアーを組み立ててくれたのは9年前の夏のことです。今年ワールドカップで日本vs北朝鮮戦の無観客試合があったスタジアムを、唯一客室から観ることのできるホテルとして一躍有名になった「パトムナンプリンセスホテル」。このホテルができたてでキャンペーン価格だったから実現できた旅行でした。
「どうせ行くならカオヤイ国立公園まで行きたい!オオサイチョウ観たい!」と高司が切望するので、その友人にガイドと車の手配もしてもらいました。当然、バンコクエリアのリサーチは私、カオヤイは高司ということに…高司のリサーチによると「カオヤイは今、乾期だから、鳥を観るのには最適だって♪」と嬉しげに語っていたので、何より何よりとお気楽にでかけました。

バンコクはとっても活気のある都市で、充分蒸し暑く、でも建物に入るといきなり冷蔵庫。大阪同様「クーラー効いているのが、お客さんへのサービスです!」と思い込んでいるのでしょうか、ま、それなりに楽しく過ごして、メインのカオヤイ行きを敢行しました。
都会のにおいのするバンコクを少しはなれたらもう田園、日差しもまぶしく道も凸凹ワイルドで外国へ来たんだぁとしみじみ。途中寄った食堂では、田んぼへ大きくせり出したテラスの上から残飯を捨てると、下で魚が大きく口を開けて待っている、不思議な光景を目にしました。ってことは今、私たちの目の前にあるまるまる肥えた「揚げ魚のあんかけ」はこの田んぼの…?思いがけず、自給自足、食物サイクルのお勉強までして、オオサイチョウを目指しました。
そしてカオヤイ国立公園へ。ガイドさんは観察路の出口で車と一緒に待っていますと去っていき、親子4人カオヤイ探検隊の出発です。
入り口の川が、濁流でゴーゴー音をたてて流れています。そこを不安定なつり橋で渡るのですが落ちたら死ぬぞ!というほど激しい流れです。その時点では「乾期でもこの水量なんだぁ」と思っていたのですが、ジャングルに一歩足を踏み入れた瞬間、思いっき疑問がわきました。だってどこもここも粘土のように、てらてらと土が光っているのです。乾期でテラテラと濡れた土はあり得ないでしょう。しかもあたり一面、茶色い松葉がびっしりと刺さっています。
「わぁ、短い松葉がいっぱいだね〜」と息子たちに言いつつ、私の生き物としての本能が、体の中に「危険」サインをピコピコ鳴らしはじめました。
「ヒルだ!」高司の一声。何とその松葉は、全部、一個残らず「ヒル」だったのです。
しかも「ヒル」達は、高司を除く3人の活きの良い血の匂いに、大喜びで歓迎のダンスをし始めたではありませんか。動くヒルの絨毯なんて、真夏の夜のホラー話のようです。
用意していた次男の長ズボンも高司がバンコクのホテルに忘れていたので、彼のぷよぷよとした軟らかい足は出っ放し。何たって「乾期」装備しかしていないのですから。しかも戻っても車がいないわけで、大ブーイングの中、ヒルやら蛇やら佃煮にしても余るくらいいるジャングルをただただ出口目指して前へ向かって進むのみ。
道はどろどろで、橋が流れ落ちている川を渡り、断崖を登ったり。「兵隊さんはどんなに大変だったろう」と先の大戦にまで思いを馳せてしまいました。ジャングル初デビューの周りを見渡す余裕はゼロ。第一、森が繁っちゃってオオサイチョウどころか鳥影も見えないのです。
時間にしたら50分弱だったのですが、これだけ必死に歩いたことはありません。やっと出口に転がり出て「パパのバカぁ〜」の大合唱。雨季と乾期を大間違いした高司を攻め立てていると…わさぁ〜と風が起きて、お目当てのオオサイチョウが2羽、すぐそこの谷の大木に舞い降りてきました。
しばしの沈黙。
会えてよかったという思いと、最初からここに車で来りゃよかったんじゃん?という思いと、ヒルへの恐怖の残像と…ふだんおしゃべりがたえない我が家に、初めて流れた微妙な沈黙とともに、オオサイチョウと、ジャングルの暑さは忘れられないものになりました。

タイといえば、オリエンタルホテルのチャオプラヤー川に面したテラスで、美青年のウエイターさんのサービスで心地よく過ごした午後のお茶の時間とか、カオヤイのホテルの爽やかな朝とか、素敵な思い出もいっぱいあるのに、行き着くのは「ヒル」。ちょっと悲しくなりますね。



「オラウータン」に会いに一年で10箇所動物園めぐりをしたり、函館出張の時は一番で、森昌子の名曲「立待岬」へ行ったりと、目的のない旅はできない性格でしたが、鳥を観はじめてからは、「旅=鳥」という時がずいぶんと長く続きました。でもその頃であった鳥で印象に残っているのは、不思議と少ないのです。
むしろドールハウス趣味にしていた頃行った国々や、シャ乱Qやきよしくんを追っかけて行った街々の、合間に訪れた公園や、動物園で出会った鳥のいる風景の方が、印象に残っています。
KewGARDENで、幼かった次男と遊んでくれたロビンや、フランクフルト動物園の寒さの微動だにしなかったハシビロコウ、ハワイのホテルの窓から観たシラオネッタイチョウ、大阪南港の野外ライブの夕暮れのカラス…きっと楽しかったイベントとの相乗効果で余計に印象に残っているのでしょう。

もしかしたら、私は、それほど熱心なバードウオッチャーでないのかもしれません。双眼鏡だって、この頃はきよしくんのコンサートの登板率の方が高いほどですから。
でも旅の合間に鳥を見つけることは続けていきたいし、それが難しい時は、いろいろな歌詞の中に出てくる野鳥を脳裏に思い描いて、歌で旅するのも続けていきたい。渡るカリガネを見上げながら旅鴉を待つ、私は港の恋千鳥〜とか、ちょっと憧れです。

今年の夏は、どこかへ行く、時間も気力も財力もないけれど。「夏=旅行」で思い出すことっていっぱいありますね。今年は思い出の旅を味わう年にしようかな。
暑さ厳しき折、みなさま、水分補給を忘れずに元気でお過ごしくださいませ。

 

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〜「着物でハーネス」バックナンバー〜
第1羽 
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「図鑑と私の切ない関係」
「きっかけは“ぬくもり”」
「雨は好きですか?」
「『鳥のぬりえ』夏場所」
〜「着物でハーネス」最新ページへ〜

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