第22羽 「 男前のアイサ類やっぱり好き♪です」

新年1月4日、私たちは諏訪湖でカワアイサの大きな群を眺めていました。遠くにコハクチョウもいるようです。なんたってプロミナを持ってきていないので、双眼鏡だけを頼りに寒風と戦いながらの観察です。
諏訪湖に丸腰で行くなんて!!と思われそうですが、ホントにそう。でも、どこに行くかわからない某旅行会社のミステリーツアーに申し込んだのだから仕方ありません。

『新春旅の福袋!!日帰り豪華三食つき!!「日本海蟹づくし御膳」「ジャンボエビフライ」を堪能、○○富士を楽しみ有名なあの神社にも初詣。おみやげ付き』のコピーと、お一人様7980円という価格、しかも新宿発着で、ついふらふらと高司と二人分申し込んだのです。よく一緒にお出かけする、鳥仲間のSちゃまにツアー参加の話しをすると「俺も!」となり、彼の家族も一緒に5人で行くことなりました。
「日本海の蟹ならば、あれか?一直線で日本海?」
「え~いっくらなんでも、そんな方まではいかないんじゃない」
「ジャンボエビフライなら伊豆だろぉ」
「あ、俺も業界の旅行で伊豆で食べた、30cmくらいのな」
「○○富士なら、榛名富士?まさか逆さ富士とかだったら怒るよ」と年末から両家間では異様な盛り上がりの中で当日を迎えました。

車内で、このツアーだけで3日には35台、私たちの参加した4日でも19台の大型観光バスが出るとガイドさんから聞いてまずびっくり。バスは甲州街道から中央高速に。6月に同じくSちゃま一家と参加した「お土産どっさどっさinフルーツ王国 山梨」ツアーと同じ方向に向かっているようです。
この時点で「伊豆のジャンボエビフライ」ではないことが判明。

「みなさま、今日は良く晴れてなによりです。窓から思う存分、霊峰富士の様子をお楽しみください」
とガイドさんの声が流れ、思いっきりの肩透かし。榛名富士や、河口湖に映る富士山、どころではなく○○富士は車窓富士だったのですね。
しかも一番最初に着いたところは行程には書いていなかった観光ハーブ園。5人いっせいにハニワのような顔になってしまいました。ここって、6月のツアーで来たよね...

お値段がお値段だけに、食事も「豪華」とは言いがたい部分も多々ありましたが、厳かな雰囲気の諏訪大社上社での初詣と、諏訪湖はラッキーでした。諏訪湖畔のガラス館で1時間滞在だったのです。
他の参加者の皆さんが、ガラス館に吸い込まれていく中、私たち5人だけが下克上し、諏訪湖へ直進。すでに手には双眼鏡持ってるあたり、さすがバードウオッチャーでございます。
「ここ来るってわかってたらプロミナ持ってくればよかったよ~」
「あ、あんなに近くにカワアイサいるじゃん!え?ホオジロガモ?デジスコ持ってくりゃよかったなぁ」
と高司もSちゃまもぶぅたれること。Sちゃまの長男Tくんが
「しょぉがないじゃん、ミステリーツアーなんだもん」
と突っ込んでましたが、凍っていない諏訪湖だっただけに、見どころ満載で...
息子達が以前活動していたボーイスカウトでの誓いの言葉は「そなえよつねに」なのですが、この時ばかりは、その言葉が身に染みました。

観たかったなぁ、カワアイサ、たっぷりと。

私はアイサ類が大好きです。鳥を観始めた頃、ミコアイサは憧れの鳥でした。若き日の書き込みがいっぱいある「フィールドガイド日本の野鳥」では、ミコアイサのところに「82.12.7伊豆沼」と緑の文字があります。寒い伊豆沼で、学生時代からの女友達Mちゃんと二人で凍えながら、いっぱいみた鳥の中にいたのでしょうね。カワアイサも同じ日付です。
ただ、鮮烈に印象に残っているミコアイサは、多摩川の是政橋上流大丸の堰のあたりで出会った群れでした。当時是政橋まで爆チャリ=自転車を全速力で漕ぐことです=5分のところに住んでいたので、ミコアイサに逢いたい一心でホントによく通いました。

橋を渡って府中市から稲城市へ。
富士通の工場を左にみて鉄橋をくぐったあたりがフィールドでした。多い年は一年に74回だか、ここに通った記憶があります。まだ都内ではカワセミは珍しかったのですが、ここではうまくすると、一日に数個体見られましたし、キジも、タシギも堪能することができました。カモ類もヨシガモやオカヨシガモなどゆっくり観られて楽しい場所でした。
ミコアイサ、♂の美しさと、♀の品の良さ、うっとりするほど好きでした。ぞっこんだったと言ってもいいくらい好きだったのです、ある日、陸に上がったときのミコアイサの姿を見るまでは。
水に浮かんでいる時は美しい姿なのですが、潜水ガモの哀しさ、陸に上がると思いっきり後ろについている足が何とも珍妙で、バランスが悪く100年の恋がいっぺんに冷めたような気分でした。もっとも100年の恋なんて、こちらも100歳越えたらどんなことになってるか想像もできませんけど。

若い姉ちゃんが、もこもこに防寒具着込んで爆チャリで双眼鏡とスコープ持って、なんて、あんまり当時はいなかったかもしれません。だいたい多摩川でバードウオッチャーと、土日以外に会うことはあまりありませんでした。いま考えると、ススキとセイタカアワダチソウの枯れ草のブッシュの中、誰にも会わずに行ったり来たりしてたこと自体、ちょっと怖い気がします。当時は、携帯だってなかったし。2時間ドラマの見すぎかもしれないけれど、犯罪のすぐそばにいたかもしれないし、ワイドショーの話題になってたかもしれない。
若さって勢いがあるのねと今さらながら感心。

勢いといえば、その翌年の3月、Mちゃんと今度はウトナイ湖に行きました。サンクチュアリに感動し、オオワシやオジロワシに大興奮、次の日は小樽を目指し電車に乗りました。海辺を走っている車窓からいっぱいの水鳥が見えます。前日のテンションのまま思わず降りたのが張碓駅でした。ここで観たのがウミアイサとシノリガモです。
降りたは良いけれど「無人駅」。しかも日に数回しか電車が停まらないことがわかって、回りの雪景色以上に頭の中が真っ白になりました。そこからどうやって帰ったのか…確か一時間ほどあとに来た、その日最後に停まる電車に乗ったような記憶があります。その年の夏に同じ駅に降り立ったときには、となりの駅まで歩いたように覚えているのですが。
ともかく、勢いだけで、何のリサーチもないまま極寒の無人駅に降りて、一歩間違ったら凍死の憂き目にあうところだったのは確かです。

夏には海水浴客に利用されていたという張碓駅は、私たちの「冒険」のあと、廃駅となり、秘境駅と呼ばれる駅に。秘境駅とは牛山隆信さんという方の作った造語で、「鉄道でしか行けなくて民家がほとんどない駅」のことだそうです。横見浩彦さんという方はさらに「駅しかなく、何もない、降りるだけの駅」とおっしゃっているそうですが、まさにあの張碓駅はそのとおりでした。ともかく小さな駅舎以外、何もないのです。忘れ去られたような、時間の停まったような駅でした。
ただあれほど、北の海と一体感を覚えたことは後にも先にもありません。

ミコアイサ、カワアイサ、ウミアイサ、とくれば忘れてならないのがコウライアイサです。
私はコウライアイサとは会ってもカスってもいないので「逢えればいいなぁ」程度思いしかないのですが、高司は「ぜひ生きたコウライアイサに逢いたいっ!!」とずっと念じているようなのです。
コウライアイサは高野伸二さんが(財)日本野鳥の会・1980年刊「野鳥識別ハンドブック」に、「数は少なく珍しい種、冬期に日本で記録されても 不思議ではない」とあって、高司には憧れの鳥でした。

園部浩一郎さんが文を、高司が絵を描き、(財)日本野鳥の会刊「野鳥」誌の1985年5月号から1988年10月号に連載していた、「野鳥識別ノート」でも「コウライアイサ」のことを2回特集しています。この「野鳥識別ノート」がきっかけの一つにもなり、いままで「変なウミアイサ」だったものが「コウライアイサ」と識別され1986年が明けてから「木曽川にコウライアイサが居る!」の大ニュースが流れ、それこそ日本中のバードウオッチャーが押しかけたことがありました。もちろん高司も木曽川に。
ところが当日はあいにくの雨で、濃霧。2時間川べりに座ったあげくぬかるみに足をとられて転び、ズボンを一本だめにしたうえに、お尻にアザまで作って、思いっきりの空振りをして戻ってきたのでした。

高司がコウライアイサと初めてあったのは同じ年の4月、「台湾野鳥図鑑」の打ち合わせで台中鳥会(現・台湾省野鳥協会)の呉森雄さんのところに伺ったときでした。台中の野鳥観察愛好者の要でもある呉さん事務所のワンフロアには、色々な標本を展示してあり、その中に「ウミアイサ」として飾ってあったものを同行した、市田則孝さんと二人で「あ?あれぇ?」「これ脇にウロコがあるじゃない?!?」と騒ぎになったとか。その個体は1981年に台湾の屏東の港町で打ち落とされたもので、呉さんもずっとウミアイサと思い込んでいたそうです。呉さんは思わぬ展開に大喜び、高司もぷちリベンジを果たしたのです。

「アイサ」の漢字表記は「秋沙」と書くそうです。でも私は「愛沙」って書きたいな。立ち姿はともかくこれだけ魅力溢れる鳥なのですものね。
今年も皇居のお堀にカワアイサとミコアイサが飛来しているようです。会いに行かなきゃ!

 

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~「着物でハーネス」バックナンバー~
第1羽 「図鑑と私の切ない関係」
第2羽 「きっかけは“ぬくもり”」
第3羽 「雨は好きですか?」
第4羽 「『鳥のぬりえ』夏場所」

第5羽 「旅でであった鳥」
第6羽 「か行の話で、ごめんなさって・・」
第7羽 「善福寺池男2人の物語」
第8羽 「着物でハーネスに至ったわけ」
第9羽 「モノクロ写真に鮮やかな色彩が蘇るとき」
第10羽「カモメとイワシと私のあやしい関係」
第11羽 「冬はやっぱりラ~メンでしょ!」
第12羽 「鳥の絵を描く『谷口高司と野鳥を楽しむ会』」
第13羽 「店閉店で考えた“もったいない”のホントの意味」
第14羽 「今をありのまま受け入れて生きる・・・ことを学んだ三宅島」
第15羽 「古本に魅せられた人たちウォッチングにはまる」
第16羽 「歩いてみました、善福寺川」
第17羽「灼熱の8月に人を偲び鳥を思う」
第18羽「双眼鏡と望遠鏡と」
第19羽「またまた図鑑の話」
第20羽「あたりき、しゃりき・・」
第21羽「つる・ツル・鶴とおめでだい一年でありますように」
~「着物でハーネス」最新ページへ~

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