第21羽 「 つる・ツル・鶴とおめでたい一年でありますように」

あけましておめでとうございます。
今年もどうぞご贔屓に、よろしくお願いいたします。

おめでたいものといえば、松。
さらにそれに「寿」の文字を添えて、小学校卒業の時の絵皿を書いたのはン十年前の私です。担任の先生が「卒業はおめでたいものだから、思いっきりおめでたい字や絵を描きなさい」といわれて、12歳、結構必死で考えたのがこの絵柄。結婚式じゃないんだから、寿はないなぁ。真っ白い絵皿になんとも間の抜けた「作品」が出来上がったのはいうまでもありません。ここにツルの姿でも入ったら完璧!な、おめでたさだったですが、明らかにミステイク。いまではその絵皿がどこへいったのかもわからないですが、もしツルでも描いていたら、さらに赤面になるのだろうなぁ…と暮れの高司の「ツルを描く」教室の講義を聴きながら思った次第。 

「ツルは霊鳥、昔の掛け軸に、ツルは松と一緒に描かれています。ツルの習性や体の構造を考えると、松にツルがたかることは考えられません。霊鳥だからこそ、枯れることのない松と一緒に描きたくなったのでしょうね。」
教室に参加していただいたみなさんは大きく頷かれます。
後ろのほうで、ちょっとあの絵皿を思い出してほっとする私。

動物園以外でツルを見たのは出水が初めてでした。
ツルと言えばタンチョウくらいしか思い浮かばない20代。それが鳥を観はじめてから「ツル」にもいろんな種類が居ることがわかって、なんとしても野性のツルをこの目で見てみたい!という思いが募りました。私の出水デビューは84年、いまから二周り前の子年のお正月、日本野鳥の会東京支部の遠出探鳥会でした。ともかく参加費用でかなり覚悟がいるツアーだったことと、高野伸二さんご夫妻とご一緒だったことは覚えているのですが、他の記憶は曖昧です。

こういう時は自称杉並のホームズこと西村眞一さんに尋ねるのが一番。野鳥写真家で中西悟堂研究家の彼は戦前戦後の本をはじめ、野鳥の会の会報やらユリカモメ誌を大量にコレクションしているのです。
「えぇ~俺になにをしろっていぅのぉ?」
もちろん大捜査の依頼に決まっています。昨日も缶コーヒーご馳走したし。ほどなくして四半世紀前のユリカモメ誌のファックスが4枚送られてきました。

一枚目は、1983年12月号「冬の荒崎(出水)探鳥会」の告知。1月14日~17日羽田を9時頃でて熊本空港から出水に、費用は昼食をのぞいて93000円とあります。「ツルの声で目をさます3日間です…」というフレーズではじまっています。ここでハートを鷲づかみされて、93000円の高い壁をヒョンと越えちゃったんだったと思い出しました。

2枚目は84年4月号の感想文。何と!第一日目を私が書いています。現ユリカモメ誌の編集長の許可をいただいたので、ここで書き写してみますね。

●第一日目・ニワトリ転じてヤマシギとなる!!……守川律子
気合と思い入れではじまった荒崎ツアー第1日目…マナヅル・ナベヅル・クロヅルとツルの揃い踏みをまず満喫。おまけにタゲリと越冬中のアマサギもいて、鶴見亭のまわりはとても賑やかです。
比較的あたたかい午後の日差しのなか、みんなでツリスガラに逢いに西干拓地帯へ向かいます。途中のたんぼで(何しろたんぼと寒風しかないような所なのですね、荒崎って)ムネアカタヒバリがいるかもしれませんと、奥のタヒバリやらアトリの群れを観ているときに、手前の土手の脇を何やら茶色いものが動いているのを発見。でも鳥歴ン十年というベテランの人達がこんなにいて何も言わないんだから、きっとたいしたモンではないのかなと思いつつUさんに
「あのニワトリみたいのはなんですか?」
と小声で訪ねてみました。途端に
「ヤマシギですよ―――みなさん!」
……エッ!あれが?……なかなかユニークな動きをみせるおしりやカンロ飴のような目、ながいくちばしに只々感動。逃げることもない大物ヤマシギさんの登場に、明日からツル達を観ても「あ…ツルね」と言ってしまいそうな自分が怖くもありました。

(▽⌒*) わぁ~24年まえの自分の文章を改めて打つ、なんとなく照れますねぇ。「守川」なんて名前も他人事のようです。
そのうえこの感想文じゃツルよりもヤマシギに会えた事を喜んでいるみたい。すいません変わりもんで。小さいときから皆が好きなもの、ってあまり気持ちが動かないタイプでした。

3枚目はこの4日間で「認めた鳥」。85種。すごいですね、85種!そのうちツルは、クロヅル・ナベヅル・カナダヅル・マナヅルと4種でていますね~。
私の嬉しかった鳥はやっぱり、ヤマシギと、白斑が美しかったホシムクドリ、白色型のコクマルガラスでした。
4枚目は参加者。全員で24名。なかに高野伸二さんご夫妻のお名前があります…おふたりの仲睦まじいご様子をただ羨ましく拝見していましたっけ。
ファックスが届いた瞬間に西村さんから電話
「写真みた?あれ、オレの!」
私の感想文に添えられたマナヅルの写真は、西村さんの作品とのこと、これには二人でビックリでした。高司とはこの頃まだ知り合ってもいないのです。これで私と西村さんが結婚していたら「イイ話」ですけれど。
「ホントに縁がなかったってことだな」とは西村さんの弁。何!?その嬉しそうな物言いは!?それより送られてきた編集後記に、彼が、何やら女性と野鳥の写真を撮りに行ったことを、鼻の穴全開で自慢気に書いてあるほうが気になります...

さて、ツルといえばもう一種、忘れてならないのがタンチョウです。出水に行った同じ年の夏に、高司と一緒に結婚の報告をしに根室の高田勝さんのところへ寄ったときに、東梅の空をフツーに二羽で舞っていたのにあったのが、野生のものとであった最初でした。
あまりの大きさと優美さに見とれたものです。
そして北海道の夏の美しい木々の緑と、タンチョウのシャープな色合いが響き合って、私の周りには素敵な風が吹いていました。

タンチョウは北海道、マナヅルやナベヅルは出水、とどこかで思い込んでいる節があった私は、今から8年前の12月に韓国の鉄原:チョルウォンで衝撃的な光景に出会いました。車の中からパッとのぞいた双眼鏡になんとタンチョウとマナヅルが一緒に入ったのです。
鉄原は38度線にある非武装地帯です。
この向こうには敵対する隣国があり、鳥の数に負けないほどの軍隊と、地雷注意の看板と、有事に備える緊張感漂う中で、のどかに田んぼの餌をついばむツルたちの姿にしばし言葉を失いました。

ハングル版と英語版で出版された「原色野鳥図鑑・韓国の鳥」のイラストを高司が描かせていただき、これからの創作活動のためにここでの探鳥を体験しておいた方が良いということで、この図鑑のスポンサーのご厚意で実現した鉄原行きでした。まさか私までご一緒できるとは思っていなかったので、かなり緊張しながら一日を過ごしました。
タンチョウ・マナヅル・カササギ・クロハゲワシ・ノスリ・多くのカモ…寒さのせいか小鳥には会えませんでしたし、自由に車を降りて鳥を見るわけにはいきませんでした。でも、吐く息が凍りそうな寒さの中で出会った光景は、いまでも私の脳裏にやきついて離れません。鳥には国境も国同士の思惑も関係ないのですね。ましてふだんは農家と軍隊以外人の出入りもなく、開発の手も入ってこないこういう場所は鳥にとってはすごく安全な場所で、まさに聖域です。いつかこの場所が鳥だけでなく、ヒトたちにとってもサンクチュアリになることを願わずにはいられませんでした。
ツルは中国でも霊鳥だそうです。日本ではツルが中国からお米を持ってきてくれた、という言い伝えが各地に残っているとも聞きます。
そんなおめでたいツルのように、優雅に立居振舞しつつ、家族・ファミリーを大事にし、今年一年も日々を大切に過ごしていけたらと思います。

皆様も健康に恵まれた一年でありますように

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~「着物でハーネス」バックナンバー~
第1羽 「図鑑と私の切ない関係」
第2羽 「きっかけは“ぬくもり”」
第3羽 「雨は好きですか?」
第4羽 「『鳥のぬりえ』夏場所」

第5羽 「旅でであった鳥」
第6羽 「か行の話で、ごめんなさって・・」
第7羽 「善福寺池男2人の物語」
第8羽 「着物でハーネスに至ったわけ」
第9羽 「モノクロ写真に鮮やかな色彩が蘇るとき」
第10羽「カモメとイワシと私のあやしい関係」
第11羽 「冬はやっぱりラ~メンでしょ!」
第12羽 「鳥の絵を描く『谷口高司と野鳥を楽しむ会』」
第13羽 「店閉店で考えた“もったいない”のホントの意味」
第14羽 「今をありのまま受け入れて生きる・・・ことを学んだ三宅島」
第15羽 「古本に魅せられた人たちウォッチングにはまる」
第16羽 「歩いてみました、善福寺川」
第17羽「灼熱の8月に人を偲び鳥を思う」
第18羽「双眼鏡と望遠鏡と」
第19羽「またまた図鑑の話」
第20羽「あたりき、しゃりき・・」
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