第10羽 「カモメとイワシと私のあやしい関係」

今年も、吉成さんにお誘いを受けて、12月16日土曜日に楽しく「銚子・カモメバスツアー」に参加させて頂きました。もちろん「着物にハーネス!」と朝5時半起きで着物を着て行ったのですが、お間抜けな私、肝心なハーネスをすっかり忘れてしまって、すっかり形無しでございました。冬の銚子に着物!?と思われるでしょうが、着物の暖かさをここでも実感、現地もさほど冷え込んでいなかったため、途中コートもスカーフも要らないような展開にびっくりでした。鳥もいっぱい出ましたね~スタッフのT嬢は勉強熱心で、去年より数段の進歩、居並ぶカモメの中からカナダカモメ一発で見つけていました。若いって素敵…
こちどり姉妹の姉「タカコ」ともども楽しく過ごさせて頂きました。参加された皆様ありがとうございました。今回、予定のつかなかった方、来年は見どころたっぷりのこのツアーに是非♪

さて、銚子といえば「イワシ」ですね。私と高司が結婚するきっかけになったのも銚子のイワシです。イワシが結ぶ恋♪なんて、ち~っともロマンチックじゃありません。しかも拾ったイワシを帰りの特急にわすれたのがきっかけなんて…もし我が家に娘がいたら「だっせぇ~」の一言で片付けられてしまいそうです。
今から20年以上前、日本野鳥の会東京支部では月曜探鳥会というのがありました。今でも探鳥会は土日メインですが…土日お休みではないリーダー達が、同じく土日お休みでない会員のために年数回開催していた探鳥会があって、1984年3月の月曜探鳥会が「銚子でカモメ」だったのです。
その年の1月の遠出探鳥会で、高野伸二さんの「出水でツル」に行って、とても面白い鳥観ができたので、ちょっと味をしめて、未踏の地・銚子へ行くことにしたのでした。 

銚子港、寒風吹きすさぶ千人塚で休憩をしているときに、目の前を水揚げされたばかりのイワシを山盛り積んだトラックが、猛スピードでブワンとカーブを切って、その勢いでイワシがブルルンとトラックから飛び散り道路に落ちていったのです。獲れたてのイワシ、船からガバッっと積まれたばかりにピカピカのイワシが目の前にゴロゴロと落ちている…「これを拾わないのはもったいなくない?」「でも道に落ちたものをひろうのは行儀悪いって親に言われたし…」物欲とお行儀との葛藤は、あっさりと物欲がうっちゃって勝ちました。
「ちょっと拾ってきま~す!」一瞬その場が凍りましたが「だってもったいないもん!」…お~マータイさんと同じ思想ながら「落ちたイワシ」というのが情けなくもありますが…私が拾い始めると、探鳥会参加者のみなさんも階段を下りて拾い始めました。あっというまに何もなくなる道路。飛び交うカモメより、俊敏な動きの私達。
その大事なイワシを特急電車の席の脇のフックにかけたまま、忘れて、東京駅構内を一緒に取りに戻ってくれたのが高司だったのです。
野鳥の会関係の古い書物を集めている、現東京支部長西村眞一さんによると、この時の探鳥会は千葉県支部と合同だったとのこと、当時千葉県支部でリーダーをしていた関係で高司がそこにいたのですね。

この日のカモメを観にいったはずなのに、記憶で残っているのはイワシ。これがきっかけで7ヶ月後には結婚していたのですから、人間何が災い…幸いするかわかりません。
ま、いきなりイワシで結婚するわけはなく…合間にこんなことがありました。 

銚子のあとに、薮内正幸さんが講師だった東京支部の室内例会でも一緒になって、みんなでお茶を飲んでいるときに「ウトナイ湖にいっぱい鳥が入っていて安西がカウントしきれないって泣いてる」「カリガネが4羽来ている」という話を高司が聞かせてくれました。その年は一月に出水まで行っていてオサイフの中はすかんぴん。なので鳥を観始めて3年連続通っていた春、春分の日を挟んでのウトナイ湖行きは諦めよう…と思っていたのです。
その時期のウトナイ湖はとても魅力的で、雪が溶けるのと競争するように、北へ帰る渡り鳥が「ドサッ!」「バサッ!」と落ちてくる感じで大量に飛来してきます。長い距離を飛んで、少しくたびれた水鳥を狙って大型の猛禽、オジロワシやオオワシも飛来し、すごいラッシュ状態になるのです。こんなにワイルドな光景はそうそう観られるものではありません。
しかもまだ会ったこともない「カリガネ」ちゃんが4羽いるのなら行くしかないでしょう…定期預金を崩して、例年通り春分の日を挟んで短い休みをやっととり行ってみると、何と!ウトナイ湖は雪の中。しかもすごく積もっています。八甲田山もかくやと思うような雪をかきわけ、やっとネイチャーセンターに着くと、窓の向こうに広がるウトナイ湖は真っ白。
「あらぁ~!?」。

当時レンジャーで大活躍していた安西英明さんが出迎えてくださって「今年は雪が深くてまだ何も来てないんです。電話で聞いてくださればよかったのに…」とのこと。「谷口さんから、安西さんがカウントしきれないほど鳥が来ていて、カリガネも4羽いるって聞いて」と言ったら「しょうがないなぁ、谷口さんも若い女の子騙しちゃって」と呆れ顔。今だったらネットでビュンと調べて、お、良いんじゃない?と飛んでいくのでしょうが、当時は思いっきりアナログな世界に生きていたので、ともかくがっかり。湖面を良く見るとヒシクイが4羽寒そうに佇んでいます。ヒシクイ…嫌いじゃないけど私がはるばる東京から、しつこいようですが定期預金崩して出てきたのは「カリガネ」に会うためなのに。それなのに、この大雪…何としたことでしょう!
苫小牧のホテルから高司に抗議の電話すると「おかしいなぁ、僕はそういう風に聞いたのに」と全く反省の色なし。「じゃ、あなたが雪に埋もれているときに、僕だけクビワキンクロ観にいったら怒られちゃいますね」って何!?それクビワキンクロだぁ?しかもその天下の大珍鳥が不忍池に出ていると言うではありませんか。 

苫小牧で一泊だけして予定を切り上げ、さっそく東京に帰り、その足で不忍池に。クビワキンクロだけでなくアカハジロの♀も観て、めでたく2種増えたのでございます。もちろん、ここまで私を動かせたのはガセネタをまんまと掴ませた高司への「怒り」に他なりません。高い交通費をかけて鳥も観られず、府中⇔上野間の交通費だけで2種も増えちゃうんですもの。まったくとんでもないわ!です。
ぷんぷんとプロミナ抱えて、新宿の地下道を歩いていたら、いくら真冬の東京でも北海道仕様の厚着に身を固めた、そこそこ若い姉ちゃんは、目立ったんでしょうね。後ろから眼光鋭い初老の男性に声をかけられました。「ほぉあなたも鳥を観るのですか?」
この方が、前(当時)東京支部長で、自然映画を撮っておられた映像監督の川田潤さんでした。「僕はあやしいものではありません」とおっしゃる川田さんと、新宿中村屋の喫茶でお茶を飲みながら、楽しく鳥のお話を聞かせて頂きました。今思えばとても贅沢なひと時を過ごさせていただいたものです。川田さんとゆっくりお話させていただいたのはこの時が最初で最後です。お話の中で、ウトナイ湖行きの経緯を聞いて「谷口さんはそんな悪い人ではありません」と、高司をかばっておられたので、何となく怒りの矛先が収まりました。

でも戦々恐々としていたのが高司です。お詫びに…と誘ってくれたのが、まだ野鳥公園になる前の大井埠頭でした。そこでトモエガモを観て、高司の薀蓄を聞いて「このおじさんといると毎日、面白いかも…」と思ったのが、結婚へのきっかけとなりました。
拾ったイワシ→不発のカリガネ→珍鳥クビワキンクロ→偶然いたトモエガモ→弾みで結婚…やっぱり「だっせぇ~」感じは否めませんね。
ただ、高司が言うには、この結婚はなかなか正解だったと。これはのろけではなく、そう思わなければやっていけないということらしいのですが。私にしてみれば、「面白そう…」と思ったおじさんは、フィールドにいるときはやたら面白いのですが、いったんフィールドを離れるとやたら手のかかるおじさんでありました。考えてみたら、実家から一歩も外に出ないで、37歳までなっちゃった人なのでしょうがないのでしょうが、これはけっこう疲れます。
取材を一緒に受けることも多いのですが「高司と私は10違うので…」というと、この頃では「姉さん女房ですね!」と言われることもあって、ため息の日々です。バンパイヤみたいに生き血を吸われているわけではないのですが、鋭気を吸われている気はします。
その高司の鋭気を吸っているのが、私より四回り上の申年生まれ、98歳になる姑で、今でこそ、ちょっとあやしい時もありますが、明治の女の底力をみせて、寒い年末も乗り切ってくれました。
この母が病弱だった高司に「ファーブル昆虫記」や「シートン動物記」を買い与えてくれたことが、生き物好きの亡き父の血を引いた高司の、虫や鳥への興味をさらに深め、今のお仕事に繋がっているのです。高司は今年25冊目の本を刊行させて頂きましたが、未だに母からのお褒めの言葉がないのが、かえって良いのかもしれません。その母は、私が思いっきり不徳・不作・不惑の可愛くない嫁なので心配で長生きし…ちょっと怖い三つ巴関係ですね。

私がカモメを観に行かなかったら…イワシを拾ってなかったら、私たちの人生は全く変わっていたかもしれません。
当時で言えば晩婚で、私みたいな訳のわからないオンナと結婚したことで、人生のジェットコースターを味わされている高司は、今年2月に60歳の誕生日を迎えます。熟考のうえ、人生の区切りということで、亡き父より引き継いだ理髪業を廃業し、イラスト一本でこれからの人生を歩いていくことに決めました。昭和16年から続いていたお店を閉めるのは勇気がいったようですが、今までも高司の絵の仕事も応援してくださっていたお客様達からは「がんばるように」と激励されました。2年後刊行予定の「バードライフ図鑑(仮)」作成へ全力で打ち込んでいくことでしょう。

今まで以上にいろいろな場所でお目にかかることと存じます。よろしくご贔屓くださいね。

 

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 1月=メジロと梅(1月のみ10日)
 2月=ラブバード(ボタンインコ)

~「着物でハーネス」バックナンバー~
第1羽 「図鑑と私の切ない関係」
第2羽 「きっかけは“ぬくもり”」
第3羽 「雨は好きですか?」
第4羽 「『鳥のぬりえ』夏場所」

第5羽 「旅でであった鳥」
第6羽 「か行の話で、ごめんなさって・・」
第7羽 「善福寺池男2人の物語」
第8羽 「着物でハーネスに至ったわけ」
第9羽 「モノクロ写真に鮮やかな色彩が蘇るとき」
~「着物でハーネス」最新ぺージへ~

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