※本ページは文字サイズ「小」にてご覧下さい
野鳥あれこれ
百瀬 淳子さんプロフィール
東京都在住
1966〜68年、1988〜89年 フィンランドに滞在。
日本野鳥の会会員、北欧文化協会理事
著書: 『白夜の国の野鳥たち−フィンランドを歩いた日々』 同成社
『アビ鳥(どり)と人の文化誌−失われた共生』 信山社

「野鳥あれこれ」第7話 (フィンランド便り−極北の冬に連帯感)    百瀬淳子



今回のフィンランドは短期滞在で周辺での鳥見だけでしたが、それなりの発見があって楽しみました。

 到着して数日後、ヘルシンキ市南端の海沿いにあるカイヴォプイストという公園を訪れました。森の中に広々と鮮やかな緑の芝生がある美しい公園です。ちなみにこちらの芝生は日本のそれとは違い、丈が3,4センチもある牧草の一種で、草はらと言ったほうがあいます。
ひさしぶりのカイヴォプイストでしたが、小高い丘にたつ黄色い塔に見覚えあり、よく休憩したコーヒー店も当時のままのたたずまいです。
「うーん 懐かしいなー」
などと独り言を言いながら歩いて行きましたが、しばらくして目が釘づけになりました。カオジロガンが2羽いたのです。カオジロガンは名前の通り顔が白くて小さく(見える)、頭上から後頭部、頚にかけて黒色、背中は波うつような横線模様のキュートなガンです。18年前は見たくて見られない鳥でした。あわててカメラを取りだしました。
彼らを近くからじっくりと堪能し、歩きだしたところ、何とまた30羽ほどのカオジロガンに遭遇しました。彼らは芝生の上で一塊になっていました。近づいても逃げません。
「ああ そうか」
と、気づきました。この公園は市の中心に近く、市民も観光客もよく訪れる場所です。稀な鳥で見映えもよいのならば、羽を切って孔雀のように公園の目玉にしている、いやそれだけではなくて繁殖させているのでは、と思いました。
翌日、セウラサーリに行ったところ、そこにも2羽いました。そしてその後、他の場所でも海上でもぞくぞくと目撃することになりました。しかも子連れで。
カオジロガンは野生のものでした。都市化が進み、街がどんどん整備されて公園などが増え餌になる草が増え、それにつれて彼らも増えてきたのです。
それはシジュウカラガンも同じ。18年前は秋の渡りの時期、一度畠で4羽の家族を見ただけでしたが、今回は草を食べる姿がふんだんに見られました。都市化が進むと、姿を消す鳥あり、現われる鳥もありで、複雑な気持ちになります。

前と比較して感じるのはカラスが多くなったこと。昔はそれほど目にしませんでした。人々はきちんと整頓されたゴミ出しをして、カラスが荒らすことは決してなかったのです。しかし今、市の中心地ではゴミ箱はあふれかえり、カラスが群がっています。観光客が激増したことが原因ではないかと思われます。
また市中で見かけることのなかったニシコクマルガラスが、今では公園、野外市の立つ波止場、市街の人のいる場所ではどこにでもいるようになりました。池のカモへのパンやりには必ず傍でおこぼれを虎視たんたんと狙っており、すっかり都市鳥になったようです。



 第5話での話題、アカゲラが手に乗った現象はフィンランドにおいても珍しいようでした。
野鳥好きの友人に話したところ、「餌場の常連だが、手に乗った話は耳にしたことがない」と。人々が日頃、ふんだんに餌をあたえるセウラサーリという特殊な環境に棲むアカゲラだったからではないでしょうか。

そんなこともあって、フィンランドの野鳥たちがどの程度人間からの餌に関わっているのかが知りたくなり、書店に行きました。給餌の仕方が書いてある『身近にいる鳥』という本を見つけましたが、ドイツで出されたものの翻訳本でした。フィンランドで出されたものはありません。
本はまず、<冬場の鳥への餌は充分に足りているだろうか>とあり、餌の種類、特別な餌の作り方、正しい給餌法や注意点が記されていました。ドイツ人の気質なのか事細かに理詰めに書かれてありましたが、フィンランドではそれに比べると、もっと自然体で野鳥に接しているように思えます。

極寒の地の北欧でも19世紀以来の地球温暖化の傾向で、越冬する野鳥の数が少しずつ増えています。そんな野鳥たちに、人々は自分の食べ物を分け与えてきました。
冷たい風が吹きだすと、庭木にはカラスムギの束がかけられます。森の中では、木のくぼみにピーナッツをいれて歩く中年女性の姿がみられます。トウヒの球果が幹の裂け目に埋め込まれています。氷のはった池にたたずむカモたちに、カバンいっぱいのパン片をあたえに来る紳士がいます。彼らがバードウォッチャーであったり、特別な愛鳥家とは思えません。ごく一般の人が、困るであろう隣人を助けるという自然発生的な気持ちで行なっているものに見えます。
かつてフィンランドの生活は貧しく、酷寒と飢餓で困難をきわめたものでした。育つ子供は少なく、幼くして死んだ子供を悼む子守唄が数多く残っています。そんな極北の地に生きる人々は、同じ冬を過ごす生きものに深い連帯感を持つのでしょう。

1988年4月下旬、春を迎えていたフィンランドは突如きびしい寒波に襲われました。強い北風が吹き、急激に温度が下がり、吹雪が4日間続いたのです。
そのとき日本人の私が驚くようなことが起こりました。新聞、テレビが次のようなコメントを繰り返し行ない、人々に呼びかけたのです。

「この急激な冬の戻りのために、フィンランドを目指していた渡り鳥は戻ってしまった。けれども既に渡ってきた鳥たちがいる。彼らの食料は危機に瀕し、数多くの死が予想される。どうか彼らにパンのかけらを与えて下さい」

<この国は自然に対して、こういう対処をしている…..> 

そのとき私は、もしこれが日本で、たとえば北海道で起こったとしたら….と思わずにはいられませんでした。  (2006.8.11)

 

 野鳥あれこれ バックナンバー
 ○連載第1話「ツグミとシロハラ」
 ○連載第2話「ビオトープの庭20年」
 ○連載第3話「豊かな海鳥の海 玄界灘
 ○連載第4話「光と鳥」
 ○連載第5話「フィンランド便り 手に乗ったアカゲラ!」
 ○連載第6話「フィンランド便り 『美しきスオミの夏に』」
百瀬さん著書 〜書籍のご案内〜
白夜の国の野鳥たち
-フィンランドを歩いた日々-

¥1,835
同成社/220ページ/20cm×14cm
1990年9月発行
北欧の野鳥や、自然、人間をみずみずしく描いた探訪記。
アビ鳥と人の文化誌
-失われた共生-

¥2,039
信山社/220ページ/22×16cm
1995年8月発行
そう遠くない昔、アビと人々の生活は密接に関わりを持っていたのです。
| What's New | What'sデジスコ | アウトレット | フェア情報 | セール情報 | HOME